映画【イニシエーション・ラブ】をひねくれ評価(評価点 8.5 / 10.0)◆恋愛・ミステリー
【邦画 / 恋愛・ミステリー】 イニシエーション・ラブ
作品情報
- 公開 : 2015年
- 監督 : 堤 幸彦
- キャスト : 松田 翔太 前田 敦子 木村文乃
あらすじ
小太りで女性経験ゼロのモテない大学生鈴木は、初めて参加した合コンで歯科助手の繭子と出会い恋に落ちる。
コンパメンバーで繭子と合う回数を重ねるたびに強くなる鈴木の思い。
過去の自分から変わろうと懸命に自分磨きをする鈴木に対し、繭子も心を開きついに交際がスタートする。
だがそんな二人の関係には、ある大きな”秘密”が隠されていた・・・。
ラスト5分で全てが覆る本格恋愛ミステリー。
作品補足
原作は2004年に発行された乾くるみによる小説。
2005年版、本格ミステリ・ベスト10で第6位にランクインされている。
監督は「トリック・劇場版シリーズ」や「20世紀少年 3部作」を手掛けた堤 幸彦。
「イニシエーション・ラブ」のひねくれ評論
かなりの完成度。
どんな仕上がりになっているんだろうと、やや心配気味に鑑賞しました。
原作を映画化する作品の多くは、原作の魅力を見事にスポイルされたズッコケ作品となっている場合がほとんどです。
今作品では原作云々は関係なく、一本の映画作品としてしっかり自立できるレベルの仕上がりとなっていました。
出来れば騙されたい。
正直なところ、注意深く鑑賞すると先が読めてしまう可能性があります。
何せ映画のキャッチコピーも挑戦的な内容だし、見る側としても「よしっ」と気合を入れてしまい勝ちです。
ところがそこまで複雑な伏線は張られていません。ミステリー作品上級者の方であれば、容易く謎を解いてしまうケースは大いに考えられます。
ここはひとつあまり気合を入れず、80年代の作風と、俳優さんたちの演技力を堪能する方に意識を傾ける事をお勧めします。
意外と前田敦子が良かった。
お芝居に難があると批評されていた事もあって、僕の固定観念はネガティブでした。
何なら前田敦子の演技のみが心配で、今までこの作品を鑑賞するか迷っていたくらいです。
ですがいざ演技を見てみると、
「あれ、悪くない・・・。むしろ・・・か、可愛い・・・。」
と不覚にも今まで興味の無かった前田敦子に対して好印象を抱いてしまいました。
もちろんベテラン大女優さんたちと比較してしまうと演技力は足元にも及ばないかもしれませんが、その辺は作風にキャラが溶け込んでいたら特に問題では無いわけで、過剰に演技のスキルに着眼する必要はありません。
言い換えれば、大女優にもできないフレッシュな演技が必要とされる作品もあるという事です。
心配していた中だるみは気にならなかった。
作品のキャッチコピーでしばしば目にする「ラスト〇分が必見」的な文言。
あれ、個人的には好きになれないと言いますか、ラスト〇分の事が終始頭にちらついてしまって、ラストを迎えるまでのストーリーの期待値が自然と上がってしまいます。
ようは、「オチに自身があるのは分かったけど、フリは大丈夫なんだろうか」と中だるみを心配してしまうわけです。
ですが今作品では際どいタイミングはあったものの、ほとんど気になりませんでした。
80年代の懐かしめるアイテムや音楽、そして俳優さんたちのナチュラルな演技力が効いていて、しっかりカバーされています。
ストーリー展開に目立った強弱は無いのにもかかわらず、”飽き”を感じさせない演出はよく工夫されているなと感心しました。
まとめ
原作の良さをしっかり映像化出来ている今作品。
上述の通り、説明不足であるとか意味不明の展開であるとかの”原作映画化あるある”は見当たらず、映画作品としての完成度は極めて高いです。
その中でもやはり注目すべきポイントは、「前田敦子の演技」にあります。
その他の登場人物も良かったのですが、前田敦子の役は明らかに超重要キャラであり、その中でも全編通して違和感を感じさせない演技はお見事でした。
個人的に今作品のMVPは前田敦子です。
今まで全く興味が無かったのに。
ネタバレ評論
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これより先は、ネタバレを含んだ上でのひねくれ評論となります。
ネタバレNGの方は閲覧いただかないようお気を付けください。
↓↓ 以下ネタバレ評論 ↓↓
2回は見ない。
「あなたは必ず 2回観る」のキャッチコピーですが、2回も見なければならないほどに細かな伏線はありません。
そもそもラストに親切な答え合わせがついているので、とりあえず大筋の謎は全て解明されます。
答え合わせを見た上で「結局どういうこと?」となる方はほぼいないのではないでしょうか。
個人的にはもっと細かい付箋がいくつも用意されていたら満足度はさらに上がっていました。
最大の付箋がわざとらしい
side-Aで大きなカギを握る、繭子が鈴木の名前を呼び間違えるシーン。
これがあまりにも分かりやすく演出されていて、「うわっ、半分種明かしやん」とドキッとしました。
感の鋭い方であれば、仮に気を抜いていたとしてもこのシーンで謎解きセンサーが反応してしまい、side-Bの展開で一足早く答え合わせをすることになるでしょう。
もう少し繭子のタックの話題へとすり替える会話がスムーズであるほうがよかったと感じます。
その方が繭子の悪女感も増すし、「今のはどういう事?怪しいけどまぁいいか」程度に止めることが出来たのではないでしょうか。
キャスティングのヤラレタ感
おデブキャラを採用したことに疑問を感じていましたが、理由が明らかにされた時はさすがに「なるほど~」と唸ってしまいました。
観る側が感じる、「え?松田翔太に変身って、さすがに無理がない?」とか、「面影も無いくらいに人が変わってるやん」のような取り急ぎのツッコミは全て、「そもそも別人の設定ですが何か?」と強気で言い返せる憎たらしさにヤラレタ感を抱きました。
まぁ、いくらなんでも繭子があんなおデブを好きになるだろうかという違和感は拭えませんが。
ラブシーンは必要だった。
個人的に濡れ場をどう扱うかというテーマは、作品のイメージを変化させることに直結すると考えています。
生々しい演出なら当然妖艶な作風になりますし、そもそも濡れ場が無い作品ならエロティシズムとはかけ離れた仕上がりになります。
濡れ場は非常にデリケートで、単にエロくすればいいとかセクシーに見せればいいとかで安易に作品に盛り込んでしまうと、途端に下品極まりない作品になります。
そこに監督のこだわりなどが入っていたらさらに最悪で、一瞬にして作品の価値が消滅するほどです。そこにこだわりたいなら、一般向けの作品ではなくAV枠にカテゴライズされるべきです。
とにかく大切なのは、どこまでも作風に馴染ませることです。
ストーリー展開に対して”必要な時に必要な分だけ”を演出することで、例えそれが激しいシーンであろうがキュートなシーンであろうが、ひどく美しく見せる究極のミスマッチを創造することが出来るわけです。
今作品での濡れ場は非常に繊細に盛り込まれていて、エロくなく、セクシーでもなく、あくまでも自然体の男女が演出されています。
目立つシーンでは無いほどのさりげなさですが、作風に必要不可欠な要素がふんだんに詰まっていました。
まとめ2
原作を絡めた評価はナンセンス。
あくまでも原作は原作、映画は映画、であるべきだと考えています。
僕はアニメ、小説に限らず、原作を映画化する考え方に何も異論はありません。絶対に大切にしてほしいポイントは、”映画だけしか知らなくても面白い作品”であることです。
確かに原作を知ったうえで映画を観る場合「あのシーンをこう表現したか」のような比較や、「あのシーン、実は原作ではこうなんだよ」といった比較も醍醐味の一つかもしれませんが、原作を知らない人にとっては全くどうでもいい話です。
さらに、その比較がポジティブなものであればプラスの要素としておオトク感が得られるかもしれませんが、ネガティブであれば比較する意義がそもそも稚拙です。
今作品の完成度が高いとする根拠は、「単純に映画が面白かった」という点です。
乾くるみ先生の原作であるとか、堤監督作品であるとかそんな背景は一切関係なく、ストーリー、演技、演出、どれを取っても良い作品だったと感じたまでです。
今作品のハイレベルな技術はとても目の保養になりました。
一口おまけ評価
こんな上司がほしい。
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