映画【ビリギャル】をひねくれ評価(評価点 7.7 / 10.0)◆ドラマ
【邦画 / ドラマ】ビリギャル
作品情報
あらすじ
金髪にピアス、ミニスカでギャルメイク。
大学までの一貫教育校に通う高校2年のさやか(有村架純)は、中学入学以来一切勉強をせず成績は学年でビリ。担任教師からも「クズ」呼ばわりをされる。
ある日タバコが原因で長期停学を言い渡されたさやかは、娘思いの母親から学習塾に通う事を勧められ講師である坪田(伊藤淳史)と出会う。
ギャル姿に面食らう坪田だが、さやかの前向きな人格に可能性を感じ慶應義塾大学の受験を提案する。
学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格したノンフィクション作品。
作品補足
監督は「今、会いにゆきます」や「ハナミズキ」を手掛けた土井裕泰(どい のぶひろ)。
原作は名古屋市の学習塾である坪田塾塾長、坪田信貴によるノンフィクション作品。ストーリー投稿サイトのSTORYS.JPに投稿後書籍化され、2013年に刊行される。
原題は「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」。
話のモデルとなった小林さやかは、方言指導員としてロケに参加している。
「ビリギャル」のひねくれ評論
努力するという事。勝ち取るという事。
今作品は「受験合格」という形の目標達成だけではなく、努力をする事への道筋が描かれています。
世間一般的に使われる「あきらめない」「頑張る」「夢を追う」「前向きに」といった言葉は、口で言ってしまうのは容易いですが実際に行動に移すことは簡単ではありません。
それを今作品では、主人公さやかをはじめとしてしっかりと映像で表現されています。
「自分では頑張ってるつもり」という誰もが陥りやすい甘さを吹き飛ばすかのような演出で、ただひたむきに勉強に取り組むさやかの姿勢には胸を打たれました。
完全ネタバレの難しさをカバー。
原題がそもそも「受験に合格する話」とされているので、観る側は結末を知ったうえで鑑賞することになります。
ただ上述のようにその結末に向かったプロセスが素晴らしく、始まりから終わりに至るまでを「感動」というテーマをもってしっかりとカバーされています。
それぞれの登場人物のエピソード設定も整っていて、非常にバランスのとれた作品に仕上がっていました。
坪田の熱血は映画としてのナチュラルさ。
クズ呼ばわりされていたさやかの素質を見抜き、慶應大学受験を提案した坪田。
もし現実にこのようなキャラの講師がいればクサイ人間にも感じますが、映画の登場人物として考えるとドはまりしています。
伊藤淳史の安定の演技が見せるクサさギリギリのパフォーマンスにより、熱血で心優しい塾講師がしっかり表現されていました。
今作品はさやかの受験にフォーカスされた構成になっていますが、坪田のポジションは明らかに主役レベルです。
脚本のもったいなさ。
個人的にはキャスティング、演技、演出ともにかなり整っていた印象でした。
ですが後半に差し掛かったあたりで若干の間延びが発生してしまいます。詳細はネタバレで後述しますが、もったいなさが否めませんでした。
演技や演出は素直に良かったので、後は脚本でしょうか。
まとめ
今回原作未読での鑑賞となりました。
ノンフィクションという事ですが、これが実話ならちょっと映画とか作品とか以前に類い稀なるとんでもない サクセスストーリーなわけで、内容自体すごすぎて作品としての評価がぶれそうなほどです。
世の中の受験生だけでなく、日々お仕事を頑張っている方、頑張っているのになかなか認めてもらえない方、就職活動、転職活動でつらい思いをしている方、子育てを頑張っているお父さんお母さん。
「今がつらい」とか、「これからが不安」といったネガティブな気持ちを応援してくれるような、心が熱くなる作品となっていました。
映画としてのクオリティもさることながら、何より実在する小林さやかさんに脱帽です。
ネタバレ評論
↓↓ ここからネタバレを含みます ↓↓
これより先は、ネタバレを含んだ上でのひねくれ評論となります。
ネタバレNGの方は閲覧いただかないようお気を付けください。
↓↓ 以下ネタバレ評論 ↓↓
中盤まで90点。後半が50点。
上述のとおり途中まではテンポよく、本当に飽きることなく楽しく鑑賞できました。
ところが後半の家族愛に比重が加わりだしてからまさかの失速。完全にのめり込んで鑑賞していただけに、正直「惜しい~」と声が出てしまいました。
受験という目標に突進していく流れが良かっただけに、後半の間延びは本当にもったいなかったです。
弟の龍太が一瞬ヤンキーのパシリになるシーンや、さやかの受験時の腹痛のシーンなんか、明らかに間に合わせ感がありました。無くてもいいぐらい。
不自然に細かい設定が割り込まれていて、原作未読ですが「きっとこれ原作に寄せてるんだろうな~感」を感じてしまう構成でした。
※家族愛のもったいなさはさらに後述
下手すりゃ超過保護。
さやかの母である工藤あかり。
実娘であるさやかから「あ~ちゃん」と呼ばれるに至った経緯はわかりませんがあまりに優しすぎました。なんというかもうちょっとこう、男気のある極道の妻のような迫力が欲しかったように感じます。
学校に呼び出されても基本的には「うちの子はいい子」「どうかお願いします」と低姿勢。タバコが見つかった時に一度だけ「退学上等」的な返しをしていましたが、結局はどこまでいっても穏便な性格のちょっと過保護な一生懸命なお母さん感が否めず、さやかの努力家を開花させたルーツとは結び付きません。
「あんたの好きにしな」「けど誰にも負けるな」「あ~ちゃんが着いてるから」的な、優しさの中に潜む厳しさが混ざっていれば違和感は払拭されていたように思います。
その後が欲しかった。
ラストは新幹線で東京へ向かうさやかを坪田が堤防から手を振り見送るシーンで終わっています。さやかの座席の位置をあの距離から明確に捉えられる坪田の驚異の千里g
今作品では個人的にさやかのその後が気になりました。そもそも実話であるという事はほとんどの方が鑑賞前に知っているはずで、少しでもいいから実際の小林さやかさんの情報に触れてくれていた方がすっきりできたと感じます。
気になってほんの少しだけチェックしてしまったんですが、大学卒業後はウエディングプランナーとして活躍し、現在はご結婚されているそうです。
作品と無関係と言ってしまえば最もなんですが、ノンフィクションというカテゴリである限り、「原作」ではなく「実話」の観点で補足が欲しかったです。
家族の和解がキビシイ。
工藤家は父の徹が龍太をプロ野球の道に進めるために付きっきり、娘二人は母のあかりが面倒を見るといった図式。
それは長年続いた家族の溝で、その崩壊っぷりは演技も含めて素晴らしかったです。
さやかが努力する一方で家庭の歯車がずれていく。これが個人的に「期待値の高い強めのフリ」となっていて、さやかの成長は気になるわ家族の和解シーンも残されてるわでワクワクしていました。
そして僕が個人的に「惜しい~」となった場面ですが、龍太の野球との決別式でさやかが模試のC判定を家族に明かすシーン。
ここで徹はさやかの成果に対して驚いた表情を見せます。満を持した和解のシーンを連想させる中、直後の徹のリアクションはなんと特に無し、ただ驚いて終わり。
そこは「そんなん知るか、お前なんかどうせ受からんわ」みたいな今更娘を認めたくない照れ隠しのような返しとか、無言で一言「知らん」と言って場を去るとか、何かしら後に続きそうなリアクションを期待してしまっただけに、「そっちか~」とガクッときました。
僕の期待はベタかもしれませんが、ベタなシーンなんだからベタで良かったんです。
その後も試験会場に車で送る最中に和解シーンのチャンスがありましたが、「今はお前が我が家の希望だわ」と掌返しとも取れてしまうセリフ。
さやかが「ふざけんな」とキレますが、スコップの雪かきで人助けをした徹に下車直前さやかから「いいとこあるじゃん」のセリフ。
これだけのやり取りで長年に及んだ工藤家の壮絶な歴史は収束を迎えてしまいます。
もしあの雪かきで徹に心を開くとしたなら、和解に至るまでにもう少し徹がさやかを陰で思うシーンが追加されているべきです。
さやかの壁に貼りまくったメモの一枚を張り直すシーンだけではちょっと足りないぐらいに、徹の演出は頑固おやじに偏りすぎました。
ラストのおんぶはもちろん良いシーンですが、あれは絶対に無くてはならない必須のシーンなので、正直おまけみたいなものです。
この家族の和解はさやかの受験と匹敵するぐらいに重要なテーマだったと思われるだけに、本当にもったいなさを感じてしまいました。
まとめ2
とはいえ感動。満足。
この作品のリアルな批評として、
「そもそも進学校なんだから元から頭のデキは良い」
「塾通いさせれてさらに慶應に進学させられる恵まれた富裕層の環境」
「慶應SFCは小論文+1科目なんだから、訓練すれば合格は不可能ではない」
などなど、手厳しい意見も並んでいます。
そこにフォーカスすると、確かにその通りです。
それはノンフィクション作品としての難しさで、観る側がどこを切り取って評価をするかによって意見は変わってきます。
では、この作品をどのようにとらえるのが良かったのか。
僕は大学受験というものをしたことがありません。ということは、今作品の受験に挑むプロセスがどこまでリアルであるかの判断がつきません。
逆に現役慶應生、または慶應を目指す人、塾の講師や学校の教師など、受験との距離が身近な人達からすれば、今作品にエッジの効いたツッコミが入っても不思議ではありません。
ただそれを言ってしまえば映画なんてどれもそうで、刑事が刑事映画を見れば、詐欺師が詐欺の映画を見れば、ホステスがお水の映画を見れば、当事者たちが目を光らせるポイントは一般の人とはどうしても異なります。
そのポイントをリアルにすること、それは言ってしまえばドキュメンタリーです。
映画なんだから、映画の質そのものにこだわれていれば多少現実に蓋をされていようとも関係ありません。というか、別にウソはつかれていないし。
今作品は家族愛の収束にはやや不満があったものの、正直なところ何回も感動して、何回も鼻の奥がツンときました。
それはやはり、母から娘への愛情、坪田の生徒への愛情、さやかの母への愛情、友達との友情が混ざって、どこかに一つは自分と映画の中の誰かを重ねさせる共感力がこの作品には強かったからだと言えます。
今作品の映画としてのツッコミは僕にもたくさんあります。
ですが、現実に伴ったツッコミは、映画に対してはあまり意味をなさないと考えています。
ではあえてどうすれば良かったのかを考えると、ノンフィクション映画ではなく、限りなく現実に伴ったフィクション映画とすることがよかったのかもしれません。
一口おまけ評価
一瞬殺るのかと。
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