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映画【愚行録】をひねくれ評価(評価点 5.6 / 10.0)◆サスペンス・ミステリー

【邦画 / サスペンス・ミステリー】 愚行録

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 作品情報

  • 公開 : 2017年
  • 監督 : 石川 慶
  • キャスト : 妻夫木 聡 満島 ひかり 他

 あらすじ

閑静な住宅街で起こった一家惨殺事件から1年、未だ犯人は見つからず世間の関心も薄れつつあった。

週刊誌の記者を務める田中(妻夫木 聡)は改めて事件の真相を追うべく、被害者の関係者らに取材を申し込む。
一方で田中の妹である光子(満島 ひかり)は育児放棄の疑いで逮捕されていた。
妹の事で問題を抱えながらも事件を追う田中、殺害された夫婦の情報を提供する関係者たち。
証言を得るごとに彼らの渦巻く人間関係が徐々に明かされていく。

 

作品補足

原作は貫井 徳郎(ぬくい とくろう)による小説「愚行録」。
同作品は2006年3月、第135回直木賞の候補となっている。

 

 

↓↓ ここからネタバレを含みます ↓↓

 

 

これより先は、ネタバレを含んだ上でのひねくれ評論となります。

ネタバレNGの方は閲覧いただかないようお気を付けください。

 

 

「愚行録」のひねくれ評価

 

まずは4人の女性キャストの整理から※公式サイト参考

各登場人物にはごく一般的な苗字・名前が採用されており、かつ把握しなければならない人数も多いため、「宮村?・・あぁ、アイツか」みたいに一瞬変換処理を要する場面があったように思います。(僕だけじゃないはず!)

そんな僕のような方もいるかと考え、公式サイトに掲載されている女性キャラ4人の名前と特徴をまとめてから批評に移ります。不要な方は読み飛ばしてください。

 

◆◆◆ ここから ◆◆◆

・田中 光子(満島 ひかり)
田中 武志の妹。
兄との間に子供あり。育児放棄で死なせる。
一家惨殺事件の真犯人。

・夏原 友季恵(松本 若菜)
田向の妻。一家惨殺事件の被害者。

・宮村 淳子(臼田 あさ美)
カフェのオーナー。終盤田中に頭を割られて自分の店で死亡。
学生時代に付き合っていた尾形が夏原に乗り換え失恋に至った経緯あり。

・稲村 恵美(市川 由衣)
学生時代に田向と交際履歴あり。
父親の会社にコネで入れてくれと田向に頼まれ、口利きを条件に田向を2番目の彼氏として迎え入れる。
現在は子持ちで旦那不明。

◆◆◆ ここまで ◆◆◆

この後から評価に移ります。

 

犯人フラグが限られすぎている。

まず率直に。

僕が見ている限り、田向一家惨殺事件の真犯人フラグは初めから田中兄妹のどちらかにしか立っていませんでした。

そもそもその可能性って、この手のストーリーなら観ている側の頭に確実によぎっているはずで、それを不透明にさせるためには当然ながら犯人フラグを余分に何個か用意する必要があります。
ですが記者である田中が関係者たちから集めた証言には、ほぼほぼ犯行に及ぶに足る動機は見当たりませんでした。
作中の「男女間のもつれ」がヒントになっていくのかとイメージしましたが、特に大きなアクシデントも演出されておらず、田中兄妹に立った犯人フラグは何の障害も無いまま回収へと繋がっていました。

ただ、個人的にはこの展開に不満はありません。
というのもこういう展開は割と有効で、ようは肝心なのは「誰が真犯人なのか」ではなくて、真犯人がどういう経緯で暴かれるかの「見せ方」に焦点が合っていくからなんですね。古畑任三郎みたいな。

僕はこの「見せ方」に今作品の大きな穴を感じました。
というか、要所にちりばめられた演出の意味がさっぱり分からなかった。
「分からない」というのは「理解できない」んじゃなく、「だからこのシーンが必要だったんだ」と観る側に作中で納得させるための裏付けが無かった、という意味です。
これは本当によくなくて、何かしらサインを出して「おっ、今のなんだ?」と期待させておきながら結局何もない、何も与えてくれない。ほんと失礼な話です。

細かい点を言い出すとキリがないので、次はその中でも特に僕が「これはよくない」と感じたシーンをピックアップしていきます。

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よくなかったシーンをあげる

【Ⅰ】タバコの演出がダントツにひどい。

カフェのオーナーである宮村 淳子を田中が店内のオブジェみたいなので殴り殺したあと、テラス席の灰皿に宮村の元カレである尾形くんから回収したタバコの吸い殻を入れて、彼に犯行をなすりつけようとしました。

翌日の新聞にはまんまと警察が尾形くんを任意同行したという報道がありましたが、この一連の流れ、一つだけ言いたいことがあります。

物語の序盤から、妙~に登場人物がタバコを吸うシーンが不自然に差し込まれてるなと思ってはいました。
あえてそのシーンを追加したとしか思えない演出だったため、さすがに何かの付箋なんだろうなと想定していました。

いや、結論から言うと確かに尾形くんのタバコの吸い殻回収して警察に任意同行させるとこまでは行ったから、付箋っちゃぁ付箋なのかもしれませんが、これ本当にひどい。

何がひどいって、各シーンに散りばめられたタバコの演出が、あんなちっぽけなワンシーンに集約されてたのがひどい。

そもそも吸い殻のトリックを使うだけのシーンに、あんなに違和感を感じるほどのフリは必要ありません。ほぼゼロでもいいくらい。

付箋って、後で明かされるネタのサイズを上回っちゃいけないんです。絶対に。
例えば友達の誕生日にサプライズでプレゼントするとき、本番直前まで極力平然を装ってここぞと言うときに盛り上がる演出を考えますよね。
いわゆる極力フリを抑えることでネタを大きく見せるという工夫です。
ここで仮に、「今日の誕生日会、期待しとけよ!絶対面白いから!」て事前にアナウンスしてたとしたら、当然ながらターゲットの想像を上回る壮大な企画が必要となります。
どこの世界に自分の誕生日パーティーを期待させるだけさせといて、当日はロウソク1本立ったショートケーキ1個だけ出してきて「どや!」みたいな演出に満足するやつおるねんと。 
もし当日ショートケーキしか用意できなかったとしたら、「ごめん、ホント今日何も用意できなくて、ごめん!」みたいな感じで伝えたうえで、申し訳なさそうにショートケーキ出すほうが、まだ喜ばれるってもんですよ。

最初、タバコのシーンは僕の思い過ごしなのかなと思ったのですが、でも頭からっぽで鑑賞してる僕ですら何度も「ん?」ってなったということは、やっぱり付箋のつもりだったという気がしてならない。

あんな小さなサプライズに何カットも使うくらいなら、他にもっと映像ならではの工夫があったでしょうに。

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【Ⅱ】なぜ田中は宮村を殺害したのか?

先ほどのトピックの続きになるかもしれませんが、なぜ田中は宮村を殺害する必要があったのでしょうか。

事の経緯はまず、宮村が田中の携帯に「もう一人夏原さんの被害者を思い出した」という用件で自分の店に呼び出すところから始まります。

そして話を聞いてみたら宮村が当時大学生だった田中光子を憐れむような、バカにするような話の展開となり、直後に田中が宮村を殺害、という流れでした。

そもそもなぜ田中は宮村を殺す必要があったのでしょうか。
該当シーンから想定されるケースとしては、

①俺の妹をそれ以上悪く言うな、からのプッツン
②田向一家惨殺事件の真犯人が妹であるという可能性に行き着くやつを消去

の2つくらいでしょうか?

ただ、これはどちらかが正解とか、どちらも不正解とかそんなことは問題ではなく、結局のところ作中で殺害動機の解説がなされていない、誰にも真相がわからないということが問題なんです。

例えば殺害動機が①の場合、そもそも宮村を殺すことが予定外の犯行だったとしたら、尾形くんのタバコの吸い殻を事前に回収したのは本当にたまたまだったと言えます。
百歩譲って、カッとなって殺したあとに「おっ、ラッキー!尾形の吸い殻ちょうど持ってたからこれ使お!」という流れだったとしても、宮村殺害のシーンで焦りも緊張もない田中の落ち着き払った態度には違和感を感じてしまいます。
あれって一応田中にとって人生初の殺人なんじゃないんですか?もしくは他にも何人か殺した経験があったから焦りとかがなかった?または物語序盤にバスの中で足の悪いフリをした演出のみで田中の異常性を連想しろと?
答えはそう、「わからない」んです。
作品として良くない意味でわからない。説明がなされていない。

「ご想像にお任せします」は基本的に大オチで使われる、賛否を生むギャンブル手法でかなりのセンスが要求されます。(あんまり成功事例は見たことがない。)
もしそれを狙ってやったなら使いどころそのものを間違ってます。

というか原作はどうだったかが問題。
これでもし原作ではちゃんと読む側には田中の殺害動機が伝わる表現があったのに、映画ではそれが実現できていなかったならもう最悪です。
僕が原作者だったら普通にへこみます。あそこはあぁじゃなかったのにって。
まぁ原作未読なので本当のところはわかりませんが。

そして殺害動機が②の場合はもっとダメです。
なぜなら、「犯人を知っている」というタレコミをしてきた田向の元カノ、稲村 恵美を殺していない、厳密にいうと殺した事を確定する演出がなされていないからです。
続きは後の話で補足として加えます。

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【Ⅲ】稲村 恵美の「似てきたと思いません?」は何を意味するのか?
てかなんで呼び出した?

週刊テラスに直接電話で「田向を殺した犯人を知ってる」とタレコミしてきた田向の元カノである稲村 恵美。
稲村とアポイントを取った田中は車で彼女のところへ話を聞きに向かいます。
そこでは学生時代の田向との話や、父親の会社に就職ができるよう口利きをしてあげた話、結局他にもコネを利用するための違う女の子「カキウチ サナエ」もいた話など、田向の当時の人物像をメインに振り返りが行われます。

そして稲村の話の真相を促すべく田中は「じゃあ犯人はカキウチさん?」と稲村に質問を投げかけるも、稲村は首を横に振り否定します。
「じゃぁ誰が犯人?」と問いかけると稲村は「その人気が付いたんでしょうね~」とか「壊れちゃったんでしょうね~」とか「みんな愚かでからっぽなのにね~」とかなんとかかんとか。

・・・ん?結局犯人はわからないということ?
じゃぁ田中を呼び出した理由は?
わ、わからない・・・。ほんとお願いだからちゃんとしてほしい。

仕方がないからこちらで都合の良い設定を補足します。

まず取材のシーンの終盤、稲村が突然自分の子どものことで「似てきたと思いません?」と田中に意見を求めます。
当然田中は「誰に?」と聞き返すわけですが、それも答えない。

仕方がないから、この赤ちゃんは田向との間にできた子どもで、「(田向に)似てきたと思いません?」と発言した、という設定だと仮定します。
納得はいってませんよ。
だって確信が得られないから。
まぁ稲村が週間テラスに電話したときに自分のことを「世界一田向を知ってる人」と話していた経緯を踏まえると、想像できなくもない。
でもやっぱり説明不足、というか演出不足、ふわっとさせすぎ、サプライズ失敗~~略~~。

まぁ小言は置いといて、たぶんそうなんでしょう。
稲村と田向との男女関係は田向が結婚した今でも続いていた、ということだと思います。

じゃぁなんで呼び出したのか。「犯人がわかった」とある意味嘘をついてまで。
しかも週刊テラスでの電話のやり取りで記事を読んだ稲村は確か「田向はあんな人じゃありません」とかなんとか言ってました。
あんな人ってどんな人でしょう。
週刊テラスの記事で田向の人物像に触れた描写ってありました?
例えば田向は「良い人」なのか「悪い人」なのか、記事の中でどちらかを判断させる描写があれば「あんな人」が何にかかっているのかわかりますが、僕が見る限りではそんなシーンはありませんでした。
とっちらかってますね~、ほんとに。

だからこっちで補足。

「稲村は田中という記者へ田向のひどい過去をタレこむことで、世間に田向の悪評を流し憎しみの気持ちを発散させたかった」とかがオーソドックスですかね。
ようは最後まで人生を利用された事への腹いせが目的ということです。

これで、稲村が田中を呼び出した理由と「似てきたと思いません?」の言葉の意味をひとまず強引に片づけました。

問題は次。

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【Ⅳ】稲村は殺さなくてもよかったのか?

田中がカフェのオーナーである宮村を殺害したのは、時系列で言うと稲村の話を聞いた後のことです。

先ほど、田中が宮村を殺害した動機が「 田向一家惨殺事件の真犯人が妹であるという可能性に行き着くやつを消去」だったら良くない、とお伝えしました。

とはいえ、宮村は光子の過去を知りすぎていると田中が判断し殺害に及んだ、というのはぶっちゃけOKなんです。だって取材中の稲村は宮村と違って田中光子のことに触れませんでしたし。

じゃぁ何がダメなのかというと、宮村を殺すなら稲村も殺すべきだからなんです。(特に演出上)

だって、本当に「稲村=セーフ、宮村=アウト」で大丈夫ですか?
真犯人の妹を持つ兄の気持ちになって考えたときに、本当に稲村はセーフですか?
生かしといて問題ないと言い切れますか?

答えはやっぱり「わからない」んです。

そもそも「犯人が分かった」といって田中を呼び出しておいて、話に出した「カキウチさん」が犯人ではないと言う。
「じゃぁ誰が犯人?」という田中の問いかけには訳の分からない見解を述べてうやむやにした。

もし田中が宮村を殺害した動機が「妹が真犯人だという可能性に行き着く人間を消去」だとしたら、田向一家惨殺事件の真相を追う田中の目的もそれにならったものになるはずです。

こうなると田中は、目の前にいる稲村という底が知れない女を本来なら殺すか、せめて知ってることを全部吐かせるために危害を加える、監禁するなどの措置が必要です。 
でも何も危害を加えなかったことで「妹が真犯人だという可能性に行き着く人間を消去」という目的自体にぶれが生じる。
結果、宮村を殺害したのは「カッとなってやっちゃった」という動機が適正となってしまうという見解です。

結局のところ大枠の展開のほとんどがこんな感じで不親切、というか説明不足、意味が分からないというシーンが多い。
いや、わかりますよ。
「たぶんこうなんだろうな~」みたいなんはありますよ。
でもこっちに設定を補わせるのって、もう表現力が不足しているという感想しか出てこない。
やっぱり観てて気持ちが良いのって、あとで「なるほど~」と唸ったり、ふわっとしたエンディングでも、よく考えたらあのシーンにはこんな意味があったのかもしれない、それを繋げてみたら鳥肌が立つほどに完成されたストーリーだった、みたいな後味の良さがないとちょっと納得できない。

この全体の抽象的でふわっとした演出が、観てる側に「疲れ」を及ぼす大きな原因になっていました。

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良かったところ。

さっきから愚痴ってばかりなので、個人的にここは良かったと感じたポイントを述べます。

それは、学生時代のシーンにおける人間関係がナチュラルに歪んでいたこと。
ここは感心しました。
すごく現実に忠実な演出で、学生たちの未熟で稚拙な判断基準が違和感なく表現されていました。

他人の不幸は蜜の味って言いますが、心地よい胸糞悪さというか、やり過ぎでない、実際に起こり得そうな、噂が立ったら良い話のネタになる程度のトピックだったのでリアリティを感じました。

ただ、それを実現したのは他の誰でもない役者さんなんですが。

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まとめ

お決まりの原作表現力不足が炸裂

この作品ではおそらく原作「愚行録」では表現されていた内容が、映画にする際になぜか大切な部分を見失ってしまう、原作表現力不足が起こってしまったと考えます。

おそらくというか絶対そうです。

原作「愚行録」は直木賞候補となるレベルの小説であり、こんなあやふやでちらかった表現が原作内で展開されているというのは考え難い。

この手の感想は他の作品でも述べていることなのですが、やるんならちゃんと原作に忠実に作家の言いたかったことや表現技法を確実にトレースするか、全体のストーリーを題材にオリジナルの作品に仕上げるか、どちらかでないといけない。

作り手が原作の内容を知ってしまってるから観る側への配慮が欠ける、というか見失うのって、観る側の立場になりきれていないという気持ちの裏返しです。

正直なところ、細かい点で言えばツッコミどころはたくさんありました。
犯行の手口や警察の動き、記者としての動き。真相が明かされるまでの展開。
今回それらに触れていないのは、そんなことよりもこの作品全体の大切な柱がぐらぐらだったからコメントがそっちよりになっただけです。

いやぁ~、観るの疲れました。

 

一口おまけ評価

ちょっと浮いてた。好きだけど。

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