映画【カメラを止めるな!】をひねくれ評価(評価点 6.2/ 10.0)◆ホラー・コメディ
【邦画 / ホラー・コメディ】 カメラを止めるな!
↓↓ ここからネタバレを含みます ↓↓
これより先は、ネタバレを含んだ上でのひねくれ評論となります。
ネタバレNGの方は閲覧いただかないようお気を付けください。
「カメラを止めるな!」のひねくれ評論
2段構えの構成は既出のパターン。
2段構え(細かく言えば3段構え)で構成された今作品。
まずは各セクションの大まかな内容を振り返ります。
【前編】ワンカット作品「ONE CUT OF THE DEAD」の全シーン。
【中編】ゾンビ映画を手掛けるに至った日暮監督の背景。
【後編】「ONE CUT OF THE DEAD」の舞台裏。
ようは、前編で伏線を用意し、中編でオチに対するフリ、後編で付箋回収、という流れですね。
今作品で話題となったこちらの構成ですが、特別珍しいパターンではありません。
個人的な見解にはなりますが、前編の時点で中編以降、少なくとも後編の流れはほぼ予想ができます。
ただ、それ自体特別問題とは思いません。
重要なポイントとなるのは、「付箋回収時の演出」に尽きます。
今作品では、その「付箋回収時の演出」が直球過ぎたため、大きな驚きを作ることができていない状態で全てのイベントが通過していきます。
以下に、もう少し掘り下げた僕の見解を述べていきます。
今作品で取り上げるべきポイントは「構成」ではない。というかあってはならない。
僕がオチの流れをなんとなく想像してしまったのが、「ONE CUT OF THE DEAD」の冒頭、「ドン」と大きな音が鳴ってから演者たちが不自然な会話を始めたところ。
そして、これが2部構成であり、後半に種明かしが設置されたコメディ映画であることを確信したのが、監督役(日暮監督)がカメラ目線で「カメラは止めない!」と発言したところ。
あの発言で否応なく ” 舞台裏で何かしらのトラブルが起こっている可能性 ” を連想してしまいます。
たくさんの作品を見ている人からすれば、たぶん僕と同じタイミングか、もっと早い段階で作品全体の構成が丸分かりになった事と思います。
上記のシーンがネタバレの決定打だった、というよりも、もはや全体に設置された伏線の演出、気配がおもいっきりお決まりのパターンだった、という感じです。
途中からはもうそのオチ以外考えられない、みたいな。
※今作品の構成が既出であるという根拠を補足、余談。
僕が2部構成パターンに初めて出会ったのがおよそ20年前、大阪を中心に活動する15人くらいからなる劇団のステージでした。
ストーリーは、サーカスのダメ団員2人が中心となり、世間話をしながら楽屋でメイクをする、というもの。
ステージ裏での団員同士のもめごと、機材トラブルなんかをドタバタでさばきながら、何とかフィナーレを迎えたところで第一部が終わり。
第二部ではサーカスの表ステージでの流れを、ステージ裏で起こったドタバタとリンクさせた形でコメディを交えて演出する、と言う展開です。
今作品とは見せ方の順序が逆ですが、構成の考え方は全く同じです。
他にも舞台作品、映画作品で同様の構成に出会ったことはありました。
だからこそ、今作品で取り上げるべきポイントは、「構成の新しさ」であってはなりません。
決して新しくは無いわけですから。
貼られた付箋は短命。ネタバレまでが瞬殺。
貼られた付箋はどれも回収されています。
が、驚きというものに欠ける、ややひねりの無い回収方法でした。
例えば(その①)。
前編でヒロインがゾンビから逃げ回っていた際に、カメラが転倒します。
しばらく地面に転がったカメラからの映像が流れますが、次には走り出したヒロインの後を追う映像へと戻ります。
これが、中編で腰を痛めたカメラマンと後輩が登場したその瞬間に、「あ、あそこで先輩がこけて腰いわして後輩にカメラマンが入れ替わるんだな」という流れを確信するわけです。
例えば(その②)。
中編で細田さんというおじさんキャラがお酒好きで「お酒が無いと手が震える」というシーンがあったその瞬間に、「あの男の子は本物のゲロを浴びたんだな」という流れを確信するわけです。
正直、クソ真面目に付箋が回収されている分には、変なひねりが無いだけ良かったとは思います。
思うのですが、ちょっとばかりネタバレを隠すフィルターが薄すぎて、もう前編で貼られたほとんどの付箋が瞬殺、答え合わせを後編まで維持できず、中編でネタバレが完了します。
せっかく貼られた付箋は、とても短い命で散っていく儚いものになっていました。
なので、後編に関しては「なるほど」ではなく、「やっぱりね」という見方になってしまうわけなんです。
じゃぁ一体どこを評価するのか?
この作品で僕が良かったと感じたところは、構成ではなくストーリーです。
始めに前・中・後編で作品を分類しましたが、前編を端折った、中・後編のストーリーは面白かったです。
「早い・安い・そこそこ」がキャッチコピーの日暮監督、ディレクターを目指す、性格に難ありの娘、そして元女優の妻。
彼らが過ごす日常の中で「ゾンビ映画」を通じて、家族の繋がりだけでなく、若手俳優や売り出し中の女優・各関係者たちの絆なんかが上手くまとまった、いわゆる「ヒューマンドラマ」としての仕上がりは悪くなかったと思います。
また、映画製作における裏方の大変さや苦悩、現場の臨場感なんかも上手く表現されていました。
それぞれのキャラクターもしっかり立っていたし、演出としてのテンポもよかった。
でもそれって、最大の見どころとされている「構成のトリック」をバッサリ切り捨てた感想なんですよね。
しかも「ヒューマンドラマ」というカテゴリのみで打ち出すとしたら、今度は内容が弱くなってしまう。
じゃぁワンカットに注目するべきか、てなっても、もっと長尺でハイクオリティのワンカット映画と比べられると当然見劣りする。
結果的にこの作品は、悪いところは見当たらないが尖ったポイントも見当たらない、トレンドの手法を寄せ集めて作られた無難な映画、という位置付けにどうしてもなってしまうわけなんです。
個人的に思うベターな構成。
今作品では、冒頭に30分ちょいのゾンビ映画が流れます。
そこでは前述のとおり、日暮監督の「カメラは止めない!」という発言により、2、および3部構成の作品であることが容易に予想できます。
なぜなら、「カメラは止めない!」という発言を「別室でモニタリングしているスタッフへの指示」であると ” 咄嗟に ” 連想してしまうからです。
なにせカメラ目線なわけですから。
モニタリングしているスタッフが他にいるかもしれない、という可能性があれば当然、冒頭のゾンビ映画は、「カメラを止めるな!」という作品の中で撮影された「ONE CUT OF THE DEAD」という映画である、という仮説が立ちます。
となると冒頭のゾンビ映画はフリで、後でオチとなる現場側の答え合わせが待っているんだろうな、と連想できるわけです。
この「簡単に連想できてしまう」という点が、やはり作品に深みが出なかった原因になったのではないかと思います。
ではどうすればよかったのか。
あくまでも個人的な見解ですが、構成を以下の順序で組めばよかったのではないかと考えています。
【前編】ゾンビ映画を手掛けるに至った日暮監督の背景。
【中編】「ONE CUT OF THE DEAD」の舞台裏。
【後編】ワンカット作品「ONE CUT OF THE DEAD」の全シーン。
先ほどお伝えした、僕が20年前に見たという劇団の構成です。
先に舞台裏を見せることで、単なるドタバタな映画制作ストーリーと思わせて、最後に全シーンを流して「逆答え合わせ」を図る。
もちろんそのまんま順番を入れ替えるのではなくて、多少の演出の組み直しは必要かと思いますが、こっちの方が少なくとも「ネタバレ」という概念が無くなって、よりコメディ感は強くなると僕は感じました。
まぁ、一素人のたわごとではありますが。
まとめ
「低予算」という情報の無意味さと、マイナー映画のメジャー展開問題。
今作品は、およそ300万円というコストで製作されたことが明らかになっています。
そして業界では「低コスト」として取り上げられています。
確かに、安上がりな製作費にしてはクオリティは高い作品だと感じますし、何よりさほど安上がり感を感じさせない点は素晴らしいと思います。
こちらの作品は当初2つの映画館にて公開され、のちに全国へと拡大した、という経緯がありますよね。
なので、「はじめはこんなに有名になるだなんて思ってなかった」という制作側の本音はあるかもしれません。
「興行収入が跳ね上がって嬉しい!」みたいな感覚も当然あるかと思います。
ですが、マイナー作品が突如メジャー入りする場合、その分のリスクというものが生じます。
それは、日本中の映画ファンから評価を受ける対象になる、ということです。
単純な話ではありますが、ようは「身内(固定のファン・関係者など)だけによる評価ではなくなる」ということです。
例えばクラスの人気者がいて、みんなから「面白いやつ」という評価を受けている人物がいたとしても、そいつを全国ネットのテレビ番組で放送したら、そりゃもう事故レベルにどんズベりするわけです。
この例えば極端すぎますが、個人的にはちょっと似たようなニュアンスは感じました。
いや、面白いんですよ。間違いなく。
でも、やっぱりどこかで見たことある、という感覚と、全国メジャーデビューするにはやや手作り臭が強すぎる、という印象がいなめない。
世の中のB級グルメに「ラーメン」てありますよね。
ラーメン業界には根強いファンがいて、全国民から愛されているB級グルメです。
でも、「ラーメン」は「高級料理」の位置付けにはなりません。
まぁ高級中華料理屋の「ふかひれラーメン」とかになると高級料理と言えるかもしれませんが、一般的に「ラーメン」と言えば、やはり750円~950円くらいの、あの「ラーメン」をイメージするのが大多数だと思います。
今作品に関する僕のイメージが「ラーメン屋」であり、そんなラーメン屋が高級料理屋のコンテストにラインナップされてしまった、というのが今回の評価に対する個人的な印象です。
低コストで庶民の味方でもあるラーメン屋は、本来、高級食材をふんだんに扱う料理屋と肩を並べるには無理があります。
なので、「低予算」であることがそのまま評価になる、という概念は破綻していると僕は思います。
低予算には低予算なりの良さがあり、お金をかけたらお金をかけたなりの良さがあるわけで、同じ土俵で評価してしまうのはナンセンスです。
もし製作費を打ち出すのなら、「製作費〇〇円未満アワード」みたいな感じで部門を分けるべきです。
その中での断トツ一位として、「カメラを止めるな!」がノミネートされたなら納得です。
今作品は紛れもなくB級映画です。
そんなB級映画が話題となり、あたかもS級の映画かのような取り上げられ方をされてしまったことに、ミスマッチが生じた原因がある気がします。
これはもちろん作品が悪いわけでは決してありません。
しいて言うなら、やはり業界の取り上げ方が適正じゃなかった、というところだと思います。
有名になってしまったからこそ、僕みたいな人間にあ~だこ~だ言われてしまう対象に選ばれちゃったわけなんですよね。
なんとも不思議な気持ちにさせられた作品でした。
一口おまけ評価
この人売れてほしい。
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