映画【ミュージアム】をひねくれ評価(評価点 7.0 / 10.0)◆サスペンスホラー
【邦画 / サスペンスホラー】 ミュージアム
作品情報
あらすじ
家庭を顧みず仕事に打ち込む警視庁捜査一課の刑事沢村(小栗旬)のもとに、”生きたままの女性を空腹の犬に食い殺させる”という極めて凶悪な殺人事件が舞い込む。
犯行現場には「ドッグフードの刑」と書かれたメモが残されており、その事件をきっかけに連続殺人事件に発展。
犯人は決まって雨の日に犯行を繰り返すカエルのマスクを被った通称「カエル男」。
警視庁は被害者の共通点を特定するが、ターゲットの中に沢村の妻子が含まれている事が判明する。
妻と子どもを守るために犯人を追う沢村。
次々と猟奇的な殺人を繰り返す「カエル男」。
捜査を進めるうえで明らかにされていく「カエル男」の本当の狙いとは?
作品補足
原作は2013年から2014年までヤングマガジンで掲載された巴亮介による漫画「ミュージアム」。単行本は全3巻。
監督は、「るろうに剣心」シリーズなどの映画化を手掛けた大友啓史。
「るろうに剣心」シリーズ同様、今作品でも脚本に携わっている。
「ミュージアム」のひねくれ評論
俳優の実力に助けられた作品。
今作品のキャスティングは非常に豪華なラインナップです。
小栗旬はじめ、松重豊、大森南朋、丸山智己など、実力派俳優が揃っています。
その他個人的にも好きな俳優さんが多くて、演技については安心して鑑賞することができたかと思います。
問題は脚本、演出でした。
ストーリーは原作にある程度忠実でしたし、世界観も問題なく表現されていたのですが、各キャラクターのセリフが特にきつかったです。
厳密にいうとセリフそのものに大きな違和感はありませんし、原作でも同様のセリフがあるためワードチョイスは間違っていないのですが、とにかくセリフと演出がかみ合っていないシーンが散見されます。
なんというか、「このタイミングと雰囲気でそのセリフは適正か?」のように、ちょっとクサく感じる演出が施されていて、度々恥ずかしくなりました。
「例えば」の話はネタバレに繋がるおそれがあるので、ネタバレ評論として後述します。
雨の世界観は悪くなかった。
全体を通してちょっとどしゃ降りすぎなのと、ちょっと傘を差さなさすぎな点は気になりましたが、”作品の印象付け”としては良かったと思います。
今作品において”雨”は大切なシチュエーションとなっており、映像化するうえでは、やりすぎなくらいでも全然OKでした。
個人的にはもっと雨のシーンがあってもよかったくらいです。
ただ、せっかく”雨”を映像にするんだから、例えば「かなりのどしゃ降り」「ちょうど傘がいるくらいのうっとおしい雨」のように、雨にもメリハリをつけてほしかったなと感じます。
そうすることで「濡れたくない雨」や「しょうがなく濡れてしまう雨」、「濡れてもいい・濡れたくなってしまうほどの雨」といった、雨とキャラの気持ちや心境を絡めた、幅を効かせた演出もできたのではないでしょうか。
カエル男の演技は要チェック。
猟奇的な殺人を繰り返す「カエル男」。
当然ながら後半に差し掛かるにつれて露出は頻繁になっていきます。
カエル男の演技は完全に今作品のキモとなっており、やりすぎない、気持ち悪すぎない、現実にはいなさそうだけど実はいてそう、というリアリティがふんだんに盛り込まれていました。
沢村のような刑事とは異なり、ある意味”演じやすい役”という見方もできますが、サイコなキャラなはずなのに「違和感が無い」という、よく考えたらぞっとする演技力は見ものです。
まとめ
小栗旬はよくやった。
脚本、演出にツッコミどころが多かった今作品。
その中でも小栗旬の演技は本当に良かったと思います。
イメージとしては、「”何か面白い事言え”と無茶ぶりしてきた上司の期待に85点くらいのクオリティで応えた」、みたいな印象です。
もちろん制作側は無茶ぶりだと気が付いてないんでしょうが、こちらとしては「よくここまで演技力で貢献したな」と感心しました。
小栗旬自体がどこまで優れた役者さんなのかはわかりませんが、少なくとも今作品での功労賞は小栗旬です。
ですが正直なところ、心、記憶に残る映画ではありませんでした。
本当に「なんにも無い」という感想です。
特筆するポイントが見当たらないんです。
「ここがひどかった」「ここが惜しかった」「ここが素晴らしかった」というのを見つけることができません。
「評論」とか言っといて一つの作品を掘り下げる力が無いのは、そもそも僕自身の問題なのかもしれませんね。修行します。
ネタバレ評論
↓↓ ここからネタバレを含みます ↓↓
これより先は、ネタバレを含んだ上でのひねくれ評論となります。
ネタバレNGの方は閲覧いただかないようお気を付けください。
↓↓ 以下ネタバレ評論 ↓↓
気になったところを突っ込んでいく①。
まずは冒頭でお伝えした「セリフ」の話から。
細かい点は多々ありますが、その中でも個人的に気になったところが、沢村が遥の行方を知るために秋山佳代が務める介護施設を訪ねるシーン。
沢村から遥の居所を尋ねられた佳代は自宅にかくまっている事を隠しますが、遥の身に危険が迫っている事を知り事実を打ち明けます。
沢村の同僚から「(居所を教えないなんて)あんたの彼氏もとんだ食わせモンだ」と皮肉を浴びせられた佳代が直後に発した言葉は、
「ちょっと!ちょっと待ってください・・・・・・!」
「いません・・・・」
「私、彼氏なんていません」
でした。
倒置法、というのでしょうか、「いません、私、彼氏、いません」という言い回し、ここが、「なぜ急に舞台っぽいセリフになってしまったのか」と、一気にリアリティから遠ざけられるポイントとなっていました。
そして、なぜこんな細かいシーンに対してわざわざフォーカスするのかというと、この場面は「カエル男」が狡猾である事、大胆な男である事、そして沢村の妻子に対する危険サインが突如訪れるという物語の転換期である事、が絡む相当重要なシーンだからです。
演出上、そしてセリフ上一番比重を置くべきポイントは”彼氏なんていない事”のはずですが、謎の言い回しにより茶番な感じが一気に漂ってしまいました。
鑑賞側で、彼氏と思っていた人、怪しんでいた人がともに佳代の「いません・・・・」によって中途半端に、フライング気味に事実が判明するわけです。
細かいようですが、もったいぶらせる+「何?何?まさか?」と引き付けるためにもそこは、
「ちょっと待ってください・・・」
⇩
「私・・・・」
⇩
「私・・・・、彼氏なんていません」
のオーソドックスな流れが適正です。いらん事すんなと言いたい。
例えばプロポーズをするときに突然、
「結婚してくれ・・・」
「オレと」
「結婚してくれ」
より、
「オレと・・・・」
「オレと・・・・・・・」
「オレと結婚してくれ」
の方が「え?何?え?まさか?」て感じがして良くないですか?
細かいシーンのわりに長くなりましたが、正直こういう演出があまりに多い。
その中でも気になったシーンについて突っ込んでみました。
気になったところを突っ込んでいく②。
次に、カエル男を追った西野がビルの屋上から落とされ殉職するシーンについて。
これ、映像化すると思いっきりツッコミどころになってしまいます。
ネクタイ一本でカエル男に支えられる西野ですが、自分から外側に身を預けないとあの体勢にはなりません。
ひざも固定されているようには見えなかったし、上手くやればカエル男が沢村の方を向いている隙に体勢を変える事は出来たように思えます。
百歩譲って、「妙な真似をしたらこの手を放す」とカエル男から釘をさせれていた、もしくは、恐怖で身動きが取れなかった、という状況だったならそこに補足が必要です。
ただ、ここで言いたいのはそんな小さい話ではなく、「そこは原作を上手くアレンジして違和感を無くす努力をしろ」ということです。
原作、いわゆる漫画では気にならなかった点も、動き、音楽、セリフが加わることで、逆に違和感を覚える事なんてよくある事です。
措置としては、例えば西野の体がギプスのような固い素材でぐるぐる巻きにされているとか、屋上の縁で椅子に括りつけられて身動きが取れず紐一本で支えられているとか、なんでもいいんです。
「そんな作業する時間なんてないやん」と感じるなら、いったん沢村が西野とカエル男を見失ったことにして、15分後くらいに個別で携帯に連絡が入るとか。ほんとなんでもいい。
わけのわからんオリジナル加える前に、まずはツッコミどころを無くせと言いたい。
気になったところを突っ込んでいく③。
先ほどの話の続きになりますが、西野が落下するシーンについて。
一番気になった点は、沢村がカエル男を追わなかったという事。
まず西野が落下するタイミングで、カエル男をとらえるよりも先に西野の安否を確認した沢村の判断は仕方ないとします。
ただ、おそらく助からないであろう西野の状態を確認した沢村は、その場で立ち尽くしカエル男を追う仕草は見せませんでした。
相棒を失ったショックから犯人追跡という判断が下せなかったという心境も考えられますが、くどいようですがそれをやるなら補足が必要です。
例えば後で「なんでオレはあの時ヤツを追わなかったんだ」と後悔してみたりとか。
西野のネクタイを放したカエル男は、堂々と歩いてその場を後にする演出が施されていました。スローで。
スローはいいけど、せめて走って逃げてほしかったですね。
オチの意味がわからない。その①
物語のラストは、運動会を応援する沢村夫妻が将太をビデオカメラに収めるシーンで締めくくられます。
将太が首元をかく仕草から、「将太に光線過敏症が発症した」ということを想像させたかったんだと推察できます。
ここから連想するのは「第二のカエル男」「カエル男と沢村の共同作品」、この辺りでしょうか。
カエル男の光線過敏症が心因性によるものだと補足が入ったことも、将太がトラウマ級の経験をしたためにアレルギー反応が出た、というオチにかかっている事が分かります。
ただ、なぜ将太を光線過敏症にしたのかがわかりません。
ここで一つ言える事は、光線過敏症が「犯罪者を生む」というイメージと一切関連が無いという事です。
例えば、「○○症候群」といった、犯罪者を生む可能性のある精神的な病気の兆候が将太に現れたとしたら、それこそ「第二のカエル男」のような不安なオチとして成立するかもしれませんが、光線過敏症の兆候が出ただけだと、「息子にアレルギー反応が出た」だけで、「危険な思想が継承された」というイメージにはなりません。
善人でも悪人でもアレルギーは発症するわけですから、なぜ大オチに将太の光線過敏症を持ってきたのか全く意味が分かりません。
それだったらアレルギーとかよりもカエル男特有のクセ、例えばビートたけしさんで言う事故されてからの例のクセ、みたいなのがあったとして、それが突然将太に反映された、のような演出の方が不気味でストレートです。
その他でも、カエル男である霧島早苗が幼少期に描いた絵を警視庁が保管していたのがわかって、それが白い画用紙を真っ黒で塗りつぶしたようなもので、将太が急に同じような絵を描きだしたとか。
考えすぎかもしれませんが、今作品のオチって角度を変えて見てみたらアレルギーに悩んでいる方々、特に光線過敏症の方々に失礼じゃないですかね。
それともやっぱ考えすぎですか?
オチの意味がわからない。その②
別の角度からもう一つ。
将太の光線過敏症が、沢村家にとって例の事件を一生にわたって思い出させ続けるトリガーというオチの場合。
いわゆる、将太を「犯罪者予備軍」に仕立て上げたのではなく、将太のアレルギー症状が出るたびに沢村家を恐怖にいざなうというトラウマ設定だとします。
それだと確かに「危険思想が継承された」というイメージよりかはまともに感じますが、やっぱり弱く感じる。
霧島早苗同様、将太もおそらく「心因性」だと考えられますが、霧島の妹は「治すには過去の自分に向き合うしかない」と治療の余地がある事が明かされています。
となると、当然沢村家は将太を治療させるために動きますし、治っちゃう可能性もありますよね。
治ってしまうかもしれないものを、沢村家を苦しめるためのオチに持ってきたと考えると、やっぱり弱くないかと。
というか、治るか治らないかは別として、あれだけの事件に巻き込まれた家族なんだから、別にアレルギーなんか出なくても充分にトラウマになります。
例えば、”カエル”を見ると将太が泣き出すとか、薄暗い部屋に入るとパニックを起こしてしまうとか。
そう考えるとやはり、「将太の光線過敏症」が大オチになっている意味が読み取れません。
まとめ2
原作を映画化するのはオリジナル作品を手掛けるよりリスクが高い。
今回のレビューでは、「原作」というワードをいくつか用いています。
ですが僕が映画鑑賞するうえで個人的に大切にしているのは、あくまで映画の質です。
よって、本来なら原作がどうの、原作はこうだった、という感想はナンセンスだと考えています。
そんな僕が今回原作に触れていることについてご理解いただきたいのは、あくまでも「原作と良し悪しを比較しているわけではない」という点です。
僕は原作の「ミュージアム」を漫画で読了しています。
そして、マンガ好きでもある僕による原作「ミュージアム」の評価は決して高いものではありません。
よって今回のレビューにも、「原作より劣っている」「原作よりよかった」というエッセンスは入っていません。
では何が言いたいのかと言うと、「映画監督やるならサボらず面白い作品を作ってほしい」という事です。
個人的に思う、原作を映画化する際に大切にしてほしいポイントは
・ファンが納得するレベルに原作をほぼ100%再現する
・原作を参考に全くオリジナルの作品を創り上げる
のどちらかでないと僕は納得できません。
「原作」というのはいわば「特許」みたいなもので、自分で考えてオリジナルで創り上げる、唯一無二の作品です。
もちろん映画に限らず、漫画、音楽も数ある作品が出尽くしたご時世ですから、完全に新しいものを創作するのは不可能かもしれませんが、それでも原作は原作です。
だから僕は「原作」に対して自然と敬意を表します。そのうえで個人的な評価が入ります。
ですが原作を形を変えてやり直す場合、中途半端な仕事をするようでは全く話になりません。
ものまね芸人さんなんかでも、めちゃくちゃそっくりか、特徴を崩して面白おかしく真似るか、どちらかじゃないと勝負にならないし面白くありません。
今作品のように、映像化するからこそ監督のアレンジでフォローするべきポイントと、下手にいらわず原作に素直に、忠実に再現するべきポイントとを嗅ぎ分けないとかえって原作者に失礼です。
俳優さんの演技力は素晴らしかったですし、世界観は決して悪くありませんでしたが、「原作」に対する愛情や敬意が感じられなかった、いわば血が通っていない作品に思えました。
一口おまけ評価
全っ然気が付かなかった。
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